20160804

無題

 最近あった悲しいことは、
毎朝、電車の窓から見えるガスタンクが、
新しく建ったマンションで遮られて、見えなくなってしまったこと。
大きな薄緑色の球体が3つ、上半分だけぽっかり現れる、異様な様子。
毎朝それをよく見たくて、つり革に掴まりながら、背伸びをしていた。
でも、もう電車を降りて、マンションの向こう側まで行かない限り、見ることはない。

多摩川、テニスコート、銭湯の煙突、屋上、看板、タクシー会社の駐車場、
布団をたたむように、顔を洗うように、目で追うことが習慣になっている、そんな風景があって、
ただ見るだけで、おまじないみたいに、ささくれ立った心がほんの一瞬柔らかくなる。
変わらずそこにあるということが、救いになっている。

 久しぶりに会う人には、大抵、全然変わらないね、と言われる。
相手に悪意はなくても、私としては、人から遅れをとってるだとか、
全然成長してないだとか、すべて悪い意味に捉えてしまう。
はいはいどうせ、そうですよ、みなさんご立派ですこと、
生活も、環境も、見た目も、考えも、めくるめく変わって、素晴らしいわね、
と、家に帰ってからも、心の中でふつふつする。そういう自分のことも嫌だし。
でも川やガスタンクはただあるだけで、そんな風には思わないからすごい。偉い。

 毎朝私にほんのちょっとの勇気をくれたガスタンクみたいに、
私も誰かのおまじないになれるのかな。

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