何が食べたいのか分からない時がよくあるけれど、今日はまさしくそれだった。昼はコンビニで適当に買って適当に食べた。別にこれが食べたいわけじゃないけど、他に食べたいものもないし、と思いながら口に運んで、噛んで飲む。そんな感じだった。
晩は何を食べようか、考えながら適当に歩いた。途中本屋に寄って、頭の片隅で何が食べたいか考えながら、本の背表紙のタイトルを読んだり、きれいな表紙の本を眺めたりした。(関係ないけれど、あまり読書家でもなく、作者や作品について詳しくない人間が、なんとなくこんな本が読みたいな、なんて思っても、△△文庫、だとか◆◆文庫といった具合に分類されていると、感覚的に見つけるのは不可能に近いと思ってしまうけれど、正しい探し方を知らないだけなのかもしれない。)心惹かれる本があっても、そこの本屋は夜の時間帯、レジに若い男子しかいないので、おつりを受け取る時に万が一すこしだけ手が触れて、私の手汗に不快な気持ちを抱かせてしまったら、ただただ可哀想と思い、その場で買うことが出来ずに、あとからネットで買うことになる。スーパーでも大体は女性のレジに並ぶ。そこそこ長く生きて、子供の一人や二人育てている女性なら(本当は見た目より若いかもしれないし、独身かもしれないし、子供もいないかもしれないけれど)、他人の手汗なんて、今日の天気は曇りね、くらいの些細な問題として気にもとめないに違いない。
本屋を出て、道を歩きながら、飲食店があれば看板のメニューを見て、首を捻ってまた歩く。そうしているうちに、前に一度だけ行ったことのある中華料理屋を思い出した。こんな言い方は失礼だけど、なぜかとても美味しく感じる中華料理屋。
店に入ると、一人も客がいなかった。ガランとした店内を見ると、とたんに自分の味覚に自信がなくなった。すぐに店員のお姉さんが出てきて、一番入り口に近い席に案内された。前来たときもそうだったけれど、このお姉さんはとても明るくて感じがいいのに、サバサバしていて、接客している瞬間以外は私の存在なんてまったく見えていないかのような様子で、それがこちらとしてはとても嬉しい。外でご飯を食べると、緊張して味があまり分からないことが多いのに、ぜんぜん緊張しない。お姉さんが「決まったら呼んでください」と言い終わらないうちに、遮るようにエビチリ定食を頼んだ。厨房の奥からは、お姉さんと、おばさんと、電話のスピーカー越しに話す女性3人の楽しそうな中国語がずっと聞こえている。怒っているような攻撃的な話し方の中国語が多いような気がする中、彼女たちのは、なんだかもっとまるっとしている。それに何を話しているのかさっぱり分からないので、知らない国の音楽を聴いているような気持ちになった。なんとなく会話を聞きながらなんとなく本を読んで待った。
やっぱりエビチリはとっても美味しかった。できたてだからかもしれないし、食べたい時に食べているからかもしれないし、分からない。いずれ誰かと一緒に行って、誰が食べても確かにおいしいという確証を得なければ。それにしても、一緒についてくる杏仁風味の寒天はぜーんぜん美味しくない。それがまたいい。
おなかがいっぱいになって、店を出て、人通りの少ない道を歩いていたら、iPodからドビュッシー流れて、中二病っぽくて心地よかった。枯れ葉が木の高いところで、カサカサと揺れているのが、オレンジ色の街灯で照らされて、それを通り過ぎると、ひまわりが一輪だけ咲いていて、それをいつも見てはちょっと笑ってしまう。もうほぼ枯れかけているのに、何をそんなに頑張っているのか。呆れるくらいに一生懸命なので、清々しいし眩しい。優しい人は好きだけど、心が美しくて、性格があまりに良すぎる人とは仲良くできなかった。自分の汚いところをまざまざと突きつけられて、きっと共感してもらえないから。それなのに、きっとそういう優しい人は、「わかるよ」とか言うに決まってる。わかるはずないと全力で思う自分がまた嫌になる。眩しすぎて直視できない類の人々を思い出す。
電車に乗って、最寄り駅で降りると、エレベーターの前に蛍光オレンジのスーパーボールが1個落ちていた。あれは駅の人か掃除の人に処分されるのだろうか。されるのだろうな。ガラクタ同然の落とし物を見るといつも、誰かにとっては宝物かもしれない、と落ち着かない気分になってしまう。
家の近くのドラッグストアに行って、目薬を買った。目は大事。ずっと見えていたい。でも視力はどんどん落ちているし、死んだ祖母のように、父親も目の手術をするらしい。私もいつかは手術しなければならないほど、黒目が白く濁ってしまうかな。目が見えなくても、頭の中で顔や景色がはっきりと思い出せるような仕組みがあればいいのに。ドラッグストアから家に帰る途中、ビンに入った、ビタミンCの黄色い飲み物を歩きながら飲んだ。反対側に歩いて行く人とすれ違うたびに、部活の帰りにこっそり買い食いするような、なんだか悪いことをしているような気持ちになって、とてもスリリングだった。
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